PCの冷却、空冷以外は何がある?|水冷・液浸・氷冷の全体像
パソコンの冷却と聞くと、多くの人はファンで風を当てる、いわゆる空冷を思い浮かべると思います。
空気で冷やす話は別の記事でも触れました。この記事では、空冷以外にどんな冷却方法があるのか、空冷と何が違うのかを、ジャンルの地図としてまとめます。
この記事でわかること、はざっくり4つです。
- 水冷と空冷の違い
- コンピュータを沈める冷却
- 日本のデータセンターでの排熱活用
- 氷やドライアイスで冷やす冷却
価格やメーカー比較、保証の話はしません。専門用語はできるだけ言い換えます。
目次
- 共通の考え方——熱をどこへ、何で運ぶか
- 家庭の水冷——セット水冷と本格水冷
- 水冷は速くする魔法ではない
- 液浸とデータセンター
- 排熱でウナギ・キノコ
- 氷冷・極冷と製氷機自作
- まとめ
📹 動画版もあります
同じ内容を動画で解説した版も用意しています。文章より音声の方が好みという方は、そちらもご覧ください。
1. 共通の考え方——熱をどこへ、何で運ぶか
まず、結論から言います。
パソコンは、計算しながら電気を熱に変えている機械です。発生した熱は排出しなければいけません。
冷却方法の違いは、難しい名前の違いではなく、「熱をどこへ、何で運ぶか」の違いです。
- 空気で運ぶか
- 液体に乗せて運ぶか
- 氷が溶ける力を使うか
- 施設の大きな配管で運ぶか
空冷は、その場の空気を吸い込み、その風で熱を捨てるやり方です。この記事では、これ以上の空冷の話はしません(ホコリや掃除の話は、別記事へ)。
では、液体で運ぶと、何が違うのか。
2. 家庭の水冷——セット水冷と本格水冷
家庭で聞く「水冷」から。
水冷とは、熱を空気ではなく、いったん液体に乗せて運ぶやり方です。
空冷との違い
空冷は、部品の近くで、その場の空気に熱を捨てます。
水冷は、熱をいったん液体に乗せます。その液体が、離れた場所にある放熱板——車のラジエーターと同じ発想の、熱を空気に逃がす金網みたいな板——まで熱を運びます。そこでファンが風を当てて、熱を空気に捨てます。
大事な部分は、こうです。
水冷でも、最後は空気に捨てています。水の魔法で熱が消えるわけではありません。運ぶルートが違う、という話です。
導入の2種類
実際に導入しようとしたとき、家庭の水冷には、だいたい次の2種類があります。
ひとつ目:セットになった水冷
最初から管とポンプと放熱板がつながっていて、買ってねじ止めするタイプです。手軽さが売りで、空冷クーラーを付ける感覚に近い。中で液体を回すポンプがあります。これは消耗品、くらいの理解で大丈夫です。
ふたつ目:自分で管をつなぐ本格水冷
部品を選んで、水路を自分で組むタイプです。自由度が売りで、見た目、静音、そしてグラフィックボードまで冷やせるのが強みになりやすい。
本格水冷でボードまで冷やすと、ボード側では15〜25℃くらい下がる、という整理もあります。その代わり、手間と、水が漏れるリスクは注意が必要です。
向き不向きの目安
| 使い方 | 向きやすい選択 |
|---|---|
| 普通のゲーム中心 | 空冷で足りることが多い |
| 長く重い作業を、静かにおきたい | セットの水冷 |
| 見た目や、グラフィックボードまで冷やしたい | 本格水冷 |
3. 水冷は速くする魔法ではない
よくある誤解をひとつ。
「水冷は空冷の上位互換で、付ければ全部よくなる」——そうではなく、熱の運び方の別ルートです。
良い空冷と、家庭用の水冷を比べると、ゲーム中など普通の負荷では、水冷の方が数℃低い、くらいのことも多いです。
差が開きやすいのは、とても熱いCPU(計算する部品)を、長時間フルで回すとき。そのときでも、水冷の方がおおむね5〜12℃低い、という報告が多いです。
もともと熱でペースダウンしていないなら、水冷で温度が下がっても、ゲームの速さ——フレームレート——はほぼ変わりません。
水冷で得やすいのは、「速さ」より、静音・見た目・余裕であることが多い。
水冷は、速くする魔法ではありません。熱い仕事を、長く、静かにこなす余裕を買うイメージです。
4. 液浸とデータセンター
少し珍しい冷却方法も紹介します。
液浸
液浸——部品を、電気を通さない液体に沈めて冷やすやり方——があります。
家庭では珍しくて、展示や趣味で見かける程度。一方で、産業や、仮想通貨のマイニングのような現場では、実用されている例もあります。
データセンター
インターネットの裏側にある、コンピュータの倉庫です。
ここは、家庭の水冷とは別物です。熱が多すぎて、空気だけでは足りない領域があります。施設の配管で冷やす世界です。
同じ「水で冷やす」でも、机の上と倉庫では、産業が違います。
5. 排熱でウナギ・キノコ
冷却の話のついでに、熱の行き先の話をひとつ。
日本では、データセンター——コンピュータの倉庫——を冷やしたあとの、ぬるい温水を、ウナギの養殖やキノコ栽培に回す取り組みがあります。北海道の美唄(びばい)などでの例です。
捨てるはずの熱を、一次産業に使う発想です。
個人のパソコンでは、冬に部屋が少し暖かくなる程度。ウナギまでは、スケールが違います。
6. 氷冷・極冷と製氷機自作
次は、氷みたいに冷やす世界です。
この記事では「氷冷」と書いていますが、店で並ぶ正式なカテゴリ名ではありません。氷点下まで冷やすものをまとめています。
競技の世界
競技の世界では、ドライアイスや、液体窒素——すごく冷たい、液体になった窒素——を注いで、記録を狙います。
普段使いのパソコンの延長ではありません。たとえるなら、通勤の車と、サーキットのF1くらい違います。空冷や水冷の延長ではなく、別競技です。
製氷機を繋いだ自作
家庭用の製氷機を改造して、パソコンに繋いだ人がいます。
流れはこうです。
- CPU(計算する部品)の上の氷が溶ける
- 溶けた水をポンプで製氷機に戻す
- また凍らせて、氷を落とす
- そのループ
負荷をかけても、およそ40℃前後まで下がった、という報告もあります。
ただし、うるさくて、電気を食って、水漏れのリスクもあります。実用というより、実験やエンタメです。真似はおすすめしません。
氷点下の冷却は、研究というより、競技と奇抜な自作の世界です。日常の冷却選びには使いません。
7. まとめ
- 冷却の違いは、熱の運び方の違い
- 空冷で足りるか。足りなければ、セットの水冷
- 見せることや、グラフィックボードまで冷やしたいなら、本格水冷
- 水冷は速くする魔法ではない。静音・見た目・余裕を買うイメージ
- 液浸やデータセンターは、家庭とは別スケール
- 氷は、趣味の向こう側
それだけ、覚えて帰ってください。

